【猿江恩賜公園七不思議】(4)
「落葉なき椎(しい)

 「落葉なき椎(しい)」と云えば、本所に伝わる七不思議の一つ。新田藩松浦家の上屋敷あった椎の木 は、だれも落葉しているのを見たことがなかったと云うお話です。

 そもそも椎(しい)とは、ブナ科シイ属に属する樹木の総称で、秋に落葉することのない常緑樹木。葉 が落ちないのが普通であって、なぜこれが七不思議なのだろうかと不思議です。しかしながら、一枚も 落葉しないとなると話は別で、朝夕欠かさず落ち葉掃除をしているか、よくできた造花なのか、あるい は本当に妖怪の仕業なのかのいずれかです。

 椎の木の代表品種が「スダジイ」や「マテバシイ」で、猿江恩賜公園にもあちらこちらに植えられてい ます。この木は、5〜6月頃に花が咲き、秋にたくさん実るどんぐりはアク抜きしないで食べられます。同じ どんぐりでも、楢(なら)や樫(かし)などコナラ属のどんぐりには強い渋みやエグ味があって、そのまま では食べられません。

 その犯人は水溶性のタンニンで、赤ワインやお茶などにも微量に含まれます。どんぐりは、縄文時代は 主食であったと云われています。しかしながら渋抜きの方法は面倒で、煮立ててまめに灰汁をすくうか、 細かく砕いて、一週間から一ケ月もの間流水による水さらしが必要です。

 ここまで、椎・楢・樫と云った呼び方で話を進めてきましたが、「楢」と「樫」はコナラ属の同じ仲間。しか しながら日本では、落葉する方を「楢」、常緑の方を「樫」として明確に区別してきました。そもそも、材が 硬くて貴重な「樫」と、薪や安い炭ぐらいにしかならないような「楢」を一緒に扱う植物学上の分類が、よ っぽど奇怪な七不思議です。


表1 猿江恩賜公園にある「どんぐり」のなる木
品種日本的分類植物学的分類常緑
落葉
どんぐり材の用途
スダジイ椎(しい)ブナ科シイ属常緑そのまま食
べられる。
マテバシイマテバシイ属
シラカシ樫(かし)コナラ属渋い木刀、太鼓のばち
枕木、高級木炭
アラカシ
ウバメガシ
コナラ楢(なら)落葉酒樽、家具、木炭
シイタケのほだ木
ヨーロッパナラ
クヌギ






(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
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