「やんばるクイナ」に出会う旅   (中篇:「山原そば」と「よへなあじさい園」)「ヤンバルクイナ」
 雨が止んだら、市役所からまっすぐ北に延びる県道84号線を走ります。 ここは、本部そば街道とも言われるルートで、多くの沖縄そば店が沿線に軒を並べています。


【山原(やんばる)そば】
 特に、伊豆味交差点横にある「山原(やんばる)そば」の鼈甲(べっこう)色に煮込んだソーキそばは大人気らしいです。 11:30にも関わらず、作業服を着た4人の若者と、3人のおばちゃんグループが外で行列を作っていました。「ずいぶん混んでいますね!」と社交辞令的に尋(たずね)れば、「回転速いからすぐ空くよ!」とのこと。「美味しいんでしょうか?」と聞けば、「みんな並んでいるんだから美味しいんじゃない!」という答に納得。なんだか人が並んでいるのを見ると、自分も並びたくなるのは日本人の性(さが)でしょうか。

 ソーキすば800円、三枚肉すば700円。 脂身の苦手な私は三枚肉を注文。麺は乾麺うどんに似ています。 沖縄そばには珍しく火傷(やけど)しそうな熱いかけ汁で、出汁(だし)はカツオと十分にあく抜きされた豚骨のダブルスープのようです。 具体的には表現できませんがなかなかの風味で、汁も残さずすっかり頂きました。

 そう云えば、観光客を意識したそば屋のメニューには「すば」と書かれています。沖縄には、母音が「あ」「い」「う」の3音しかありません。「あ・い・う・え・お」は「あ・い・う・い・う」、「さしすせそ」であれば「さしすしす」となるらしく、そのため「そば」は「すば」と発音するのだそうです。 同様に「おきなわ」は「うきなわ」、転じて「うちなん」になるのだそうで、こんなことは「うちなんちゅ(沖縄の人)」でも知りません。


【よへなあじさい園】
 伊豆味交差点から左の山道に入った先に、よへなあじさい園があります。よへなあじさい園は、91歳の饒平名(よへな)ウトさんが30年前から趣味で自分の山に植えたのがきっかけだそうで、今では8,000株を越えるアジサイ達が所狭しと咲き誇っています。 内地のアジサイコーナーもあって、額アジサイや大輪の園芸品種も幾つかありましたが、山全体を覆(おお)うアジサイは沖縄古来の品種のようです。ちなみにアジサイは、普段はクールな青色ですが、アルカリ土壌に出会うと頬(ほほ)を赤らめるのだそうです。

 アジサイ園を後にして、近くの茶屋で熱いコーヒーを一杯。 県道84号線沿いには、内地からの観光客を意識してつくられたお洒落で落ち着く茶屋や食事処が沢山あります。オーナーも内地からの移住者か結婚して沖縄に暮らす人がほとんどで、観光者の好む感性をよく心得ています。今回寄らせてもらった「農芸茶屋 四季の彩」は二度目です。ベランダのテーブル席からは、手すりに覆(おお)い被(かぶ)さるブーゲンビリア越しに、1月下旬に見頃を迎える緋寒桜(ヒカンザクラ)で有名な八重岳の深い森が臨めます。

 コーヒーを頂いている間にも、八重岳の上空には黒い雲が迫り、あたりは急激に暗くなってきました。午後から雨という天気予報が、これ程までに的中するのも珍しいことです。世界一のスーパーコンピューター「京」の力で、沖縄の気象予測も信用できるまでに進化したのでしょうか。(いいえ、気象庁が今年5月に導入したスーパーコンピューターは、日立「SR16000モデルM1」です。 追加補足:この紀行文を執筆した時点では、「京」は世界1位でした。


【羽地(はねじ)ダム】
 雨はさらに激しさを増し、急きょ羽地(はねじ)ダムから林道を通って辺野古に抜け、宜野座インターから高速に乗って帰ることにしました。 羽地ダムは形の綺麗なロックフィルダムで、周辺に広い公園も整備され、5月の連休には鯉のぼり祭りで賑(にぎ)わう所です。ダムには、エアリフト魚道と呼ばれる小型の魚やエビ・カニ専用のエレベータがあるそうで、ちょっとびっくり。「オキナワコキクガシラコウモリ」(絶滅危惧IB類)専用の人工洞窟まであるというから2度びっくりです。

 林道の途中にはダム湖を横切る「またきな大橋」、ごく僅かの地元民しか知らない名も無い湧水など、ほかにも気になるアイテムが盛りだくさん。「近いうちに、また来(き)なければ!」という思いを胸に、土砂降りの雨の中、後ろ髪を引かれる思いでやんばるの地を後にしたのでした。


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